動物実験がもたらす医学的恩恵
歴史
古代3世紀BCにさかのぼり、ロイヤル・ソサエティ・オブ・メディシンによれば、ギリシャの医師エラシストラトスは「無数の動物実験」を行い、人間の呼吸機構に関する「確かな説明」を導き出しました。1998年のナフィールド・カウンシル・オブ・バイオエシックスの報告では、世界中の研究者が年間5,000万から1億匹の動物を使用しているとされています。
乳がん治療への貢献
HER2/neu陽性乳がんの治療薬ヘルセプチン(トラスツズマブ)は、効果と毒性を評価するために生体モデルが不可欠です。コンピューターモデルだけでは、生体の複雑で相互依存的なシステムを正確に再現できません。また、死体を用いた実験では、がん細胞の運動性といった重要な現象を観察できません。そのため、動物実験がヘルセプチンの作用機序解明に重要な役割を果たしています。
糖尿病治療への貢献
1923年、外科医フレデリック・バンティングと生理学者J.J.R.マックレオドは、インスリンの実用的抽出に成功し、ノーベル賞を受賞しました。彼らは犬の膵管を結紮し、膵臓を摘出して糖尿病モデルを作り、抽出したインスリンを投与して犬を生存させました。この研究が基礎となり、米国だけでも約500万人がインスリン治療に依存しています(2007年National Diabetes Information Clearinghouse統計)。
「3R」原則
1959年、微生物学者R.L.バーチと動物学者W.M.S.ラッセルは、動物実験の非人道性を減らすための「削減(Reduction)」「代替(Replacement)」「改善(Refinement)」という3つの原則を提唱しました。2007年の『Alternatives to Animal Testing and Experimentation』誌は、これらの原則が世界中の科学界で広く採用されていると報告しています。
削減は使用する動物数や苦痛を減らすこと、代替は無生物モデルや無脊椎動物など感覚が低い生物で置き換えること、改善は実験手法を痛みの少ないものに改良することを意味します。
倫理的・社会的論争
動物認知に関する哲学的議論もあります。デカルトは動物を「機械」と見なし実験を正当化しましたが、ヒュームは動物が目的を持ち知的に行動すると主張し「穏やかな使用」を提唱しました。ベンサムやシンガーは、動物が苦しむかどうか、あるいは種差別的な倫理観(種差別=speciesism)に焦点を当てています。
動物解放軍(ALF)など極端な動物権利派は研究施設への暴力行為に走ることもありますが、ほとんどの研究者は「動物福祉」に注力し、権利問題よりも実験動物の苦痛軽減を目指しています。
