精神外科の歴史とロボトミーの興亡
中世の開頭術
中世に医師は「開頭術(トレパニング)」を行い、患者の頭蓋骨に円形の穴を開けて悪霊を追い出すと信じていました。この手法は古代シュメール文明でも行われていましたが、科学的根拠は全くありませんでした。
フィニアス・ゲージ事件
1848年、鉄道作業員のフィニアス・ゲージは事故で鉄棒が脳に突き刺さり、性格が穏やかだったのが凶暴な人物へと変わりました。この事故は、脳の一部が損傷しても生存できること、そして脳損傷が行動に大きく影響することを示す重要な事例となりました。
近代精神外科の誕生
ゴットリーブ・バークハルトはゲージ事件に着目し、1882年に精神外科手術を試みました。前頭皮質の一部を切除することで、暴力的な性格を穏やかにできると考え、6人の患者に手術を実施しました。そのうち1人は死亡し、数名はてんかんを発症しましたが、行動変容が確認されたことから「成功」と評価しました。
ロボトミーの全盛期
1935年、ポルトガルの神経学者エガス・モニズが最初のロボトミーを行い、前頭葉を切除しました。米国では精神科医ウォルター・J・フリーマンがこの手法を推進し、1945年から1949年にかけてロボトミー件数は10倍に増加しました。当時は精神障害の治療法として広く受け入れられていましたが、1949年の《Newsweek》は「無差別に行われる失望的な手術」と批判し、世論の転換が始まりました。
ロボトミーの衰退
1950年代に抗精神病薬が開発・普及すると、外科的治療は次第に廃れ、精神外科は医療界と一般市民から非難されるようになりました。ロボトミーは歴史的に終焉を迎え、現在では完全に廃止されています。
