なぜゲル電気泳動で鎌状赤血球ヘモグロビンは通常のヘモグロビンより遅く移動するのか
背景
電気泳動では分子の電荷とサイズに基づいて分離が行われます。鎌状赤血球ヘモグロビン(HbS)は、β‑グロビン遺伝子の変異により、正常ヘモグロビン(HbA)と比べてβ‑鎖のアミノ酸が1つ(グルタミン酸→バリン)置換されています。この置換はヘモグロビン全体の形状と電荷に影響を与えます。
HbS の特性
バリン置換により HbS は溶解性が低く、酸素が抜けた状態でポリマー化しやすくなります。ポリマー化した HbS は長く硬い鎖状構造を形成し、赤血球を変形させて鎌状にします。
ゲル電気泳動での移動速度が遅くなる要因
サイズと形状:ポリマー化した HbS は分子サイズが大きく、形状も不規則です。大きな分子はゲルマトリックス中を通過しにくく、移動速度が遅くなります。
電荷:β‑鎖の置換により HbS の総電荷は HbA よりも負の電荷が減少します。電気泳動では負に帯びたゲルが正電荷の分子を引き付けますが、負電荷が弱い HbS は引力が小さく、結果として移動が遅くなります。
ゲルとの相互作用:長いポリマー構造はゲルの孔と多く接触し、摩擦抵抗が増大します。この追加抵抗も HbS の移動を遅くする要因です。
結果と利用
これらの要因により、HbS は HbA よりもゲル電気泳動で遅く走り、特有のバンドが形成されます。このバンドパターンは鎌状赤血球症の保因者や患者を、正常ヘモグロビン保持者と区別する診断手段として利用されます。
