電子医療記録(EMR)の歴史と現状
電子医療記録(Electronic Medical Records、略称EMR)は、患者の個人情報をコンピュータ上で記録・管理・共有するシステムです。診察時の所見、既往歴、検査結果、処方薬、紹介状、手術・処置の記録、さらには生検や画像診断、心電図などの検査情報までが一元化されます。従来は医師が個別に紙のカルテを保管し、診療所を移転する際は実物を持ち運ぶ必要がありましたが、EMRは情報の電子的転送を可能にします。
利点
標準化された用語や手順コード(例:National Drug Code, NDC)により、情報の一貫性が向上します。
HIPAA(1996年医療保険の相互運用性と説明責任に関する法)に基づくプライバシー保護機能が組み込まれており、患者情報の安全な転送が可能です。
検査や治療のリマインダー機能を設定でき、診療の質向上に寄与します。
初期の導入例
1970年代初頭、ローレンス・L・ウィード医師らが開発したVermont大学のPROMISシステムが自動化医療記録の先駆けとなりました。
1967年にユタ州の末日聖徒病院で導入されたHELP(Health Evaluation through Logical Processing)や、同年に開始されたIntermountain Healthcareの10施設への展開が挙げられます。
1968年にはMHTS(Multiphasic Health Testing System)とCOSTAR(Computer‑Stored Ambulatory Records)がパイロット運用され、1970年代から80年代にかけてカイザー・パーマネントやマサチューセッツ総合病院で実装されました。
1973年にインディアナ州で開始されたRegenstrief EMRは、現在も稼働している長寿システムです。
発展の経緯
1969年に提案されたProblem‑Oriented Medical Record(問題指向医療記録)は、SOAP(Subjective, Objective, Assessment, Plan)形式で情報を整理しましたが、実務への適合性が問われ、広く普及しませんでした。
技術的進化
多くの診療所は依然として紙カルテをアルファベット順で保管していますが、画像診断のデジタル化が進み、LanVisionなどのシステムで診断画像を電子的に管理・転送できるようになっています。
病院でのEMRは、請求、集中治療・救急、薬剤管理、放射線・病理・検査、入院・退院・転院管理、スケジューリング、マスターペイシェントインデックス(MPI)など多岐にわたります。
政府の関与
1990年代末に米国政府は1999年までに全国的な電子カルテシステムを実装する目標を掲げましたが、プライバシー懸念やコスト問題で期限は延期されました。
2009年以降、オバマ大統領はEMRの全国導入を政策目標とし、2014年までに全医療機関が電子記録を使用することを宣言しました。以降、連邦政府は設備導入費用の補助やインセンティブ制度を拡充しています。
