海馬を外科的に除去した場合の影響とは

海馬摘出術(hippocampectomy)とは

海馬摘出術は、側頭葉内側に位置する記憶形成の中心部である海馬を外科的に除去する手術です。海馬は新しい記憶の獲得と統合に不可欠な構造であるため、摘出すると記憶や認知機能に大きな影響が現れます。

1. 前向性健忘(新しい記憶が形成できない)

手術後、患者は手術前の出来事は思い出せても、手術後に起こった出来事を記憶に残すことが困難になります。特に、事実や出来事を意識的に思い出す宣言的記憶が著しく障害されます。

2. 空間認知の障害

海馬は空間ナビゲーションや認知マップの構築に重要な役割を果たします。摘出により、自己の位置把握やルート学習、空間記憶課題が困難になることがあります。

3. エピソード記憶の崩壊

時間・場所・感情といった要素を統合して具体的な出来事を記憶するエピソード記憶は、海馬がなければ詳細に思い出すことが難しくなります。

4. 手続き記憶は比較的保たれる

宣言的記憶が障害されても、技能や習慣といった手続き記憶は大脳基底核や小脳で処理されるため、比較的維持されます。

5. 情動調節への影響

海馬は扁桃体と連絡しており、情動の調整に関与しています。摘出により感情反応が鈍くなり、感情表出が乏しくなることがあります。

6. 文脈学習の困難

情報とその学習状況(文脈)を結びつける文脈学習も海馬に依存しています。手術後は、同じ情報でも学習時の状況に基づく呼び出しがしにくくなります。

7. 長期記憶への定着が阻害される

海馬は新しく得た情報を一時的に保持し、長期記憶へ転送する役割を担います。海馬が欠損すると、この統合過程が不十分となり、長期記憶の形成が著しく低下します。

個人差はありますが、他の脳領域が代償的に働くケースもあるものの、海馬摘出は新しい記憶形成や空間認知に深刻な影響を与えることが多いです。

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