電子医療記録(EMR)の課題と可能性

電子医療記録(EMR)は、医療の安全性と効率性を向上させ、医療現場を根本的に変える可能性があります。しかし、紙の診療記録を完全に置き換えるには多くのハードルが存在します。本稿では、EMRのメリット・コスト・技術的課題・プライバシー問題を整理し、実際の導入状況と課題を解説します。

メリット

  • RAND社の調査によると、医療機関の90%がEMRを導入した場合、外来・入院双方で年間770億ドル以上のコスト削減が見込まれます。主な削減要因は、入院期間の短縮、看護師の事務作業時間削減、検査の重複回避、薬剤使用の最適化です。

    また、コンピュータ化された処方入力システム(CPOE)を併用すれば、薬剤エラーが約8百万件/年のうち3分の1程度(約260万件)削減できるとされています。

    慢性疾患管理にも大きな効果が期待されます。15の主要な慢性疾患が医療費増加の半分以上を占めている中、EMRは患者の健康状態・服薬・生活指導を一元管理し、危機的な事態になる前に介入できるよう支援します。

導入コスト

  • EMR導入にはソフトウェア・ハードウェア費用に加え、紙から電子への移行費用、従業員教育費、システム保守費が必要です。

    ミシガン州立大学(MSU)の調査では、医師1人当たりの導入費用は21,750ドル~152,000ドル、年間保守費は9,250ドル~12,791ドルと報告されています。ハードコストの削減効果は、診療所で約251,900ドル、クリニックで約356,395ドルと試算されていますが、実際の費用対効果は業務内容やエラー削減効果に大きく左右されます。

技術的課題

  • 現在、市場には多様なEMRシステムが存在しますが、相互運用性(インターネット)が不十分です。患者が異なる医療機関を受診した際に、システム間でデータがスムーズに共有できないケースが多く、米国保健福祉省のデジタル医療情報コーディネーターであるデイビッド・ブレイラー氏も「インターネットは医療情報交換の成功に不可欠」だと指摘しています。EMRだけでなく、患者モニタリング機器など他の医療ITとの統合も課題です。

プライバシー

  • EMR導入に伴うプライバシー侵害リスクも懸念されています。『Journal of the American Informatics Association』の調査では、1,000人の医師のうち16%が「非常に」プライバシー侵害を懸念し、55%が「やや」懸念していると回答しました。また、精神科医や心理士などは、機密性の高い情報(特に精神科情報)をEMRに記録することに対し、63%が紙媒体よりも記録を控える傾向があると報告されています。医師はEMRの利便性を評価しつつ、患者情報の安全確保を求めており、システム開発側はセキュリティ機能の強化が急務です。

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