自家軟骨細胞移植(ACI)
1987年に初めて臨床応用されて以来、自家軟骨細胞移植(ACI)は軟骨修復の新たな選択肢として注目を集め、外科手術のツールボックスに加わっています。患者自身の軟骨から細胞(軟骨細胞)を採取し、培養で増殖させた後、損傷部位に移植します。
軟骨と軟骨細胞
軟骨は骨端同士が直接擦れ合うのを防ぎますが、関節外傷や関節リウマチなどの炎症性疾患で損傷することがあります。軟骨内部の軟骨細胞はまばらに分布し、血管から遠いため栄養供給が乏しく、骨や皮膚に比べて自然治癒が極めて遅いのが特徴です。そのため外科的介入が無いと永久的な欠損が残ります。ACIは欠損部位における軟骨細胞数を増やすことで、軟骨の再生を促進します。
手術手順
ACIは二回の手術から構成されます。第一の手術では、膝関節上部などの比較的健康な部位から軟骨プラグを採取し、そこから軟骨細胞を抽出して培養液で増殖させます。培養期間は約2週間です。第二の手術では、損傷した軟骨を完全に除去し、周囲の健常軟骨に円形の欠損(ホール)を作ります。長骨を覆う薄い膜(骨膜)を小さく採取し、欠損部を覆うカバーとして使用します。その上に培養した軟骨細胞を注入し、手術部位を縫合して終了です。
適応症
最新のレビューによれば、これまでに1万5千人以上の患者にACIが実施されています。当初は膝関節の軟骨欠損に限定されていましたが、現在は足首関節の損傷にも適用されています。ただし、欠損部の周囲に健康な軟骨が必要なため、広範囲の欠損や重度の関節リウマチなど全身性の軟骨変性を伴う患者には適用できません。比較的小さな欠損(直径約3〜10mm)であれば、軟骨プラグを直接移植するだけの手術で対応可能です。したがって、ACIは限定された患者層に対して最も有効であり、特に外傷性の中小規模欠損に高い成功率が報告されています。
手術結果
多数の研究でACIの有効性が示されています。例えば、患者の半数がACI、残りがモザイクプラスタ(複数の軟骨プラグを直接移植)を受けた比較試験では、ACI群の疼痛軽減と機能改善が有意に優れていました。これまでの臨床データでは、成功率は痛みの軽減と機能向上を基準にすると約80〜90%とされています。2002年の61例の長期追跡研究では、成功例の軟骨は最低10年間安定して残存し、関節鏡で観察した際の外観や硬さは元の軟骨と同等でした。
メリットとデメリット
上記の通り、ACIは適応範囲が狭いものの、対象となる欠損に対しては高い成功率と、元の軟骨と同等の構造・耐久性を持つ再生軟骨が得られます。一方の欠点は、手術が二回必要であること、手術技術が高度であること、費用が高額であること、そして適用できる患者が限られる点です。
スキャフォールド併用ACI
近年は、軟骨細胞をゲル状のスキャフォールド(足場)に包んで関節内に移植する手法も開発されています。スキャフォールドは細胞を均一に分布させ、骨膜フラップ移植を不要にすることが期待されています。現在の追跡調査では、自由型移植と同等の安全性と有効性が確認されていますが、臨床的なアウトカムが向上するというエビデンスはまだ得られていません。
