癌治療の歴史
癌は古代から広く見られる疾患ですが、近年になってようやく病態が解明され、手術、放射線、化学療法、分子標的薬など多様な治療法が確立されました。
初期の癌手術
米国癌協会(ACS)によれば、古代の医師は腫瘍を診断し外科的に除去できましたが、腫瘍を切除しても再発するため、癌は不治と考えられていました。19世紀に全身麻酔(1846年)が導入され、外科手術が飛躍的に進歩。19世紀末にはウィリアム・スチュアート・ハルステッドが腫瘍とその周囲広範囲の組織を同時に切除する「根治的乳房切除術」を提案しましたが、1970年代の臨床試験で、より小規模な手術でも同等の効果があることが示されました。
1880年代、イギリスの外科医スティーブン・ページは癌細胞が血流を介して全身に転移するが、特定の臓器でしか増殖しないことを示し、手術後の全身治療の重要性が認識されました。
現代の癌手術
20世紀中頃からは、内視鏡やファイバースコープを用いた低侵襲手術が発展し、管を通して腫瘍を除去できるようになりました。1970年代以降、超音波、CT、MRI、PETといった画像診断技術の進歩により、開腹・開胸による探索手術の必要性が大幅に減少し、針生検で内部腫瘍の組織採取が可能となりました。1990年代後半には液体窒素や極低温プローブを用いた凍結手術(クライオサージェリー)が導入され、レーザーやラジオ波による腫瘍焼灼も実用化されています。
放射線療法
1896年にヴィルヘルム・コンラッド・レントゲンがX線を発見したことは、癌治療に大きな転機をもたらしました。発見から数か月で診断に、3年以内に放射線治療が始まりました。当初はラジウムや低電圧の診断装置が使用され、フランスの医師らは数週間にわたる低線量照射が治療効果を高めることを明らかにしました。20世紀初頭には、ラジウムを細いチューブに封入し、腫瘍や体腔内に直接挿入するインターネアリングが行われ、子宮頸部や喉頭など手術が困難な部位にも適用されました。
化学療法
第二次世界大戦中、マスタードガスに曝露した兵士の骨髄が損傷することが判明し、米軍は防護策とともにガスの抗腫瘍作用を研究しました。その結果、窒素マスタードがリンパ腫に有効であることが分かり、DNAを損傷させる薬剤の開発につながりました。1920年代にはシドニー・ファーバーがアミノテレインを用いて小児白血病の寛解を実現し、これは現在広く使用されるメトトレキサートの前駆体となりました。
1956年に初めて化学療法による完全寛解が報告され、1960年代にはホジキン病や小児白血病、1970年代には精巣腫瘍で高い治癒率が得られました。
免疫療法
免疫療法は、体内の細胞増殖シグナルを模倣する薬剤を用います。1970年代に抗体を大量生産する技術が確立され、20年後に初の抗体医薬品が悪性リンパ腫や乳がんの治療に承認されました。その後も多数の抗体薬が開発・承認され、研究は進行中です。
分子標的治療
1990年代以前は、ほとんどの抗癌薬は細胞分裂を阻害することで腫瘍を死滅させていました。分子標的治療は、癌細胞の増殖や転移を制御するシグナルや、自然死(アポトーシス)を誘導する経路に働きかけます。1960年代に癌細胞が異常な成長因子を過剰に分泌していることが分かり、1980年代に成長因子受容体を阻害する薬剤が開発されました。また、腫瘍血管新生を阻害するアンジオジェネシス阻害薬は、1970年代に概念が提唱され、2004年に初めて承認されました。
