術後認知機能障害(POCD)とは

認知症とは

認知症は脳の機能が慢性的に進行性で低下する状態で、最も顕著な症状は短期記憶の喪失です。行動の不適切さ、判断力の低下、学習・コミュニケーション能力の低下、思考の混乱、安全確保の困難など、さまざまな認知機能障害が伴います。原因は多数あり、最も一般的なのはアルツハイマー病です。症状は手術などの急性イベント後に急に現れることは少なく、時間とともに徐々に悪化します。

術後認知機能障害(POCD)

術後認知機能障害(Post‑operative Cognitive Dysfunction、略称POCD)は、手術後数週間から数か月にわたり認知機能が低下する状態です。POCD がある患者は、術後の疾病や死亡リスクが高まります。ある研究では、退院時に POCD が認められた患者は術後3か月以内の死亡率が平均より高く、退院時と3か月時の両方で POCD が続く場合は1年以内の死亡リスクがさらに上昇すると報告されています。多くの場合、軽度の POCD は自然に回復しますが、根本的に治療できない認知症とは異なり、原因が除去できれば回復が期待できます。

早期認知症と POCD の関係

まだ診断されていない早期認知症の段階にある高齢者は、脳にすでに変化が起きているため、術後認知機能障害を起こしやすいと考えられます。手術という外的ストレスが、潜在的な認知機能低下を顕在化させることがありますが、手術自体が認知症を引き起こすわけではありません。POCD の原因解明と予防策の研究が盛んに行われています。

診断とリスク要因

POCD が疑われる場合、言語学習・再認、認知的柔軟性、注意散漫、記憶力など複数の認知領域を評価する神経心理学的テストが実施されます。早期に POCD を認識することで、さらなる認知機能の悪化を防ぐためのフォローアップが可能になります。

特に心臓手術を受けた患者は POCD の発症率が高いとされていますが、非心臓手術でも認知機能低下は報告されています。高齢者や大手術を受けた患者、外傷後ストレス障害(PTSD)を有する患者はリスクが高まります。

主な原因

POCD の原因は単一ではなく、麻酔薬や鎮静薬、術前・術後に使用される鎮痛薬の残留作用が関与することがあります。特にオピオイドやベンゾジアゼピン系鎮静薬は高齢者に混乱状態を引き起こすことがあるため、使用量を最小限に抑えるか、必要に応じて中止することが推奨されます。また、人工呼吸器による呼吸管理が前頭前皮質に影響を与える可能性や、手術自体が代謝変化を引き起こし、認知機能低下につながることも指摘されています。

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