子宮摘出術後における生体同一性ホルモン補充療法の概要
定義
生体同一性ホルモン(バイオアイデンティカルホルモン)は、植物から抽出した原料を化学的に加工し、ヒトのエストロゲンやプロゲステロンと同一の分子構造を持つように合成されたホルモンです。合成ホルモンに比べて「自然」‑的とされ、患者ごとに必要な量を調整できるよう、薬局で調剤(コンパウンド)されることが多いです。
子宮摘出術後の使用
子宮摘出術(子宮全摘)後にホルモン補充が必要かどうかは、手術の目的と摘出範囲に依存します。
- 子宮だけを摘出した場合、卵巣は残っているためエストロゲン・プロゲステロンは引き続き産生されます。更年期症状の有無や重症度に応じて、ホルモン補充療法(HRT)の適応が判断されます。
- 卵巣も同時に摘出する根治的子宮摘出術(卵巣摘出)では、エストロゲンとプロゲステロンが不足するため、HRT が必須になることが多いです。
- がん摘出を目的とした子宮摘出の場合、がんの種類やステージによりホルモン療法の可否が決まります。例えば、子宮体がんが進行している場合はホルモンが腫瘍増殖を促すリスクがあるため、使用は慎重に検討されます。
HRT を選択する際に、生体同一性ホルモンと合成ホルモンのどちらを使用すべきかは、患者と医師の協議で決まります。現在の主流医療ガイドラインでは、生体同一性ホルモンは第一選択肢とはみなされていません。
課題
生体同一性ホルモンの最大の問題は、十分にコントロールされた大規模臨床試験が不足している点です。「自然」だから安全という主張は論理的に納得しやすいものの、主流医薬品と同等の厳格なエビデンスは未確立です。
2006 年に米国ナチュロパシー医学会で実施された 50 名の閉経女性を対象とした小規模研究では、エストロゲン関連症状の 82%、プロゲステロン関連症状の 74%が改善したと報告されています。しかし、対象数が少なく、副作用の評価が不十分であることが指摘されています。
ガイドライン・政策声明
過去数年間、複数の大学医療センターが生体同一性ホルモンに関する文献をレビューしています。2006 年に内分泌学会が再発表した方針は、米国医学会(AMA)でも採用され、2009 年 2 月には米産科婦人科医会(ACOG)も同様の立場を表明しました。いずれの声明も、「生体同一性ホルモンの有効性や安全性を裏付ける科学的根拠はない」と結論付けています。
反論
自然ホルモン研究所の医学部長 C.W. Randolph Jr. 医師は、近年の研究と臨床データが生体同一性ホルモンの安全性と有効性を裏付けていると主張しています。2009 年 3 月にホルトルフ医療グループが『Postgraduate Medical Journal』に掲載したレビューでは、同種ホルモン療法は乳がんや心血管疾患のリスクを「増加」させるのではなく、むしろ「低減」させる可能性が示唆されています。
今後の臨床試験
2010 年にメイヨークリニックの女性健康センターが、内分泌学、補完医学、検査医学の各部門と共同で、生体同一性ホルモンの安全性と有効性を検証する臨床試験を開始しました。この研究は、現在進行中の大規模ランダム化比較試験として期待されています。
