ナノ分子を活用したがん治療の最前線
ナノテクノロジーとがん治療
ナノサイエンスは、1億分の1メートル(1ナノメートル)スケールの分子を研究する学問です。このスケールになると、マクロな世界では見られない特性や応用が可能になります。近年、研究者はこれらナノ分子を用いてがんを治療・根絶する方法を模索しています。米国国立衛生研究所(NIH)をはじめ、多くの大学や政府機関が資金とリソースを投入し、重要かつ新しい領域の開拓に取り組んでいます。
現在、承認されているナノテクノロジーを利用したがん薬として、卵巣がんに効く「ドキシル(Doxil)」と、乳がんに効く「アブラキサン(Abraxane)」があります。これらはがん治療薬にナノ分子を結合させ、腫瘍細胞へ効率的に薬剤を届ける仕組みです。今後も多数のナノテクノロジー系治療薬が開発される見込みで、がん治療の主流になることが期待されています。
ナノビーとナノミサイル
ミズーリ州セントルイスのワシントン大学にある癌ナノテクノロジー卓越センター(Siteman Center for Cancer Nanotechnology Excellence)では、合成ミツバチ毒素(メチン)をナノサイズの「ナノビー」に搭載し、がん細胞に直接投与する研究が進められています。ナノビーはがん細胞を探知し、周囲の正常細胞を傷つけずに合成ミツバチ毒素を放出します。現在はマウス実験段階ですが、来年には臨床試験が予定されています。
また、アルゴンヌ国立研究所とシカゴ大学は、チタン酸化物と脳腫瘍を標的とする抗体を組み合わせた「ナノミサイル」の開発に取り組んでいます。チタン酸化物は光に反応して活性酸素ラジカルを生成し、がん細胞を選択的に死滅させますが、正常組織への影響は最小限です。現在は実験室レベルでの検証が行われています。
ナノテクノロジーは、がん治療の新たなフロンティアとして期待されており、今後の研究成果が注目されています。
