アルツハイマー患者の不安・行動症状に対する薬物療法
歴史
1900年代初頭、ドイツの医師アロイス・アルツハイマーは、長期間にわたる混乱と記憶障害を抱えていた女性の死体を解剖し、脳の神経細胞にプラークの沈着と糸状の変化(タングル)を発見しました。これがアルツハイマー病と呼ばれるようになりました。アルツハイマー病は進行性の脳疾患で、初期は短期記憶の喪失から始まり、次第に判断力や言語、日常作業の遂行、行動の維持が困難になります。症状は通常70歳以降に現れますが、40代でも発症する早発型があります。早発型の約50%は遺伝的要因によるとされ、85歳以上の人口の約50%が罹患リスクが高いと考えられています。
タイプ
アルツハイマーは認知機能の低下と精神症状を伴います。認知機能低下は記憶・理解・思考・判断力の障害を指し、精神症状には抑うつ、不安、興奮、攻撃性、幻覚、妄想、本人認識の混乱などが含まれます。これらは「認知症の行動・心理症状(BPSD)」と総称され、認知症治療と同等に重要です。放置すれば患者は極度のストレスと不安に苛まれ、介護者の負担も増大します。
予防・対策
BPSDの診断はまず環境や身体的状態の評価から始まります。たとえば、患者が見慣れない介護者に不安を示す場合は、介護者の変更で改善することがあります。関節痛が原因で抑うつが現れる場合は鎮痛薬で症状が和らぐことがあります。夜間の睡眠障害が原因で悪夢や幻覚が出る場合は、昼寝を控えるなど生活リズムの調整が有効です。これらの根本的な要因を除去した上で、症状が残る場合は薬物療法が検討されますが、目的は精神症状の改善であり、過度な鎮静は避けます。
理論・現状の薬剤
アルツハイマー患者の精神症状に特化した薬は限られています。ベンゾジアゼピン系のロラゼパムは不安や不安性うつに用いられ、脳と神経に働きかけて鎮静効果をもたらします。錠剤や液剤で1日2~3回服用します。オキサゼパムも同様に不安やアルコール離脱による興奮に使用され、1日3~4回服用します。これらはアルツハイマー専用ではありませんが、軽度から中等度の不安に広く用いられます。重度の不安や攻撃性に対しては、抗精神病薬リスペリドンが適応されますが、軽度の症状には推奨されません。場合によっては抗うつ薬や睡眠導入剤が併用されることもあります。
将来展望
研究者は診断技術と予防法の改善に取り組んでいます。MRIやPETの画像精度向上により、発症リスクの高い患者を早期に特定できる可能性があります。現在、MRIを用いて全般性不安障害の薬剤が脳に与える影響を評価する研究が進行中です。また、血液・尿・脊髄液からのバイオマーカー探索や、予防ワクチン・治療薬の開発も活発です。さらに、運動や心血管系の健康がアルツハイマーの進行を抑えるというエビデンスも蓄積されています。
