多発性硬化症と神経障害性疼痛
概要
多発性硬化症(MS)は、脳・脊髄・視神経からなる中枢神経系を標的とする自己免疫疾患です。女性に約2倍の頻度で発症し、原因は不明ですが、20歳から50歳の成人に多く診断されます。免疫系が神経細胞の軸索を覆うミエリン鞘を攻撃し、瘢痕(プラーク)を形成することで、神経信号の伝達が阻害されます。
ミエリンが失われると、視覚障害、筋力低下、疲労、しびれやうずき(感覚異常)など、さまざまな症状が現れます。
疼痛
MS患者の約55%が「臨床的に重要」な疼痛を経験し、女性に多く見られます。疼痛は急性・慢性、神経障害性かそれ以外かで分類されます。
代表的な神経障害性疼痛は次のとおりです。
- 三叉神経痛:顔面の鋭い刺すような痛みで、時に歯痛と誤診されることがあります。
- L’Hermitte徴候:首を前に曲げたときに体全体に走る電撃様の感覚。MSでは頸部脊髄損傷が原因です。
- 異常感覚(ディスエステジア):焼灼感、鈍痛、帯状の圧迫感など。視神経炎に伴う眼球運動時の疼痛も稀に報告されています。
神経障害性でない疼痛としては、筋緊張による痙攣痛や、運動制限からくる腰背部痛があります。
治療法
根治療法はありませんが、疾患進行を遅らせる薬剤や症状緩和の治療があります。神経障害性疼痛には、抗けいれん薬や抗うつ薬が中心です。
- 三叉神経痛:カルバマゼピン、フェニトインなど。
- L’Hermitte徴候:抗けいれん薬や首用ソフトカラー。
- ディスエステジア:ガバペンチン、アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリンなど。
- 非神経性疼痛:バクロフェンやチザニジンによる痙縮緩和、NSAIDs、ストレッチや理学療法、温熱療法など。
配慮すべき点
疼痛は外見からは分かりにくい「見えない症状」です。患者は家族や友人に痛みの実態を伝え、支援を求めることが重要です。また、職場や日常生活での支障を減らすために、痛み管理の専門クリニックやサポートグループの利用が推奨されます。
医師にはすべての症状を報告し、効果が不十分な場合は代替治療を相談しましょう。多発性硬化症協会が提供する多職種連携の疼痛クリニックは、薬物療法だけでなく、理学療法やカウンセリング、代替医療も組み合わせて支援します。
注意喚起
症状の変化や新たな症状の出現は、病状の進行や薬剤の副作用を示すサインです。異変を感じたら速やかに医師に相談してください。
