胚性幹細胞研究の概要

識別

  • 幹細胞とは、分化と呼ばれる過程で筋細胞や血球など様々な特化細胞に変化する可能性を持つ未分化の細胞です。成人(体性)幹細胞は特定の系統に分化しますが、胚性幹細胞は胚の内部細胞塊(inner cell mass)から採取され、全ての細胞種に分化できる多能性(pluripotent)を持ちます。2007年には、成人幹細胞を遺伝子操作により胚性幹細胞様の多能性状態に“誘導”する技術が確立され、米国国立衛生研究所(NIH)はこれらを「胚性幹細胞に類似した状態に再プログラムされた」と説明しています。

起源

  • 胚性幹細胞の大半は、不妊治療の体外受精(IVF)で作製された胚が研究目的で提供されたものです。これらの胚は受精後4〜5日で形成される胚盤胞の内部細胞塊から採取されます。採取過程で胚は破壊されますが、提供されなければ凍結保存されるか、最終的に廃棄されます。

可能性

  • 国連教育科学文化機関(UNESCO)は、胚性幹細胞研究がパーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症などの神経変性疾患の治療に大きく貢献する可能性があると指摘しています。また、心筋や骨組織の修復、自己免疫疾患(例:全身性エリテマトーデスやHIV感染症)への応用も期待されています。

論争

  • 胚性幹細胞の研究は、生命の始まりや人格の成立時点に関する倫理的議論を呼んでいます。受精時点で人格が成立すると考える立場は、胚の破壊を殺人と見なします。一方で、胚盤胞はまだ人格を持たない“潜在的”な生命と捉える見解では、医療への恩恵が価値あるとされます。また、連邦資金の使用に関する政治的対立もあり、2001年にジョージ・W・ブッシュ大統領は胚性幹細胞研究への連邦資金提供を禁止し、2009年にバラク・オバマ大統領がその制限を緩和しました。

初期臨床試験

  • 2009年1月、米国食品医薬品局(FDA)はカリフォルニア州のバイオテクノロジー企業Geronに対し、胚性幹細胞移植のヒト臨床試験開始を許可しました。対象は脊髄損傷患者8〜10名で、安全性評価が主目的ですが、体幹部や脚部の感覚回復、神経筋制御の改善も検証されます。しかし、同年10月には新たな非臨床動物実験データの審査を受け、試験は「臨床保留」状態となっています。

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