ヒ素汚染と水のろ過方法
ヒ素は微量でも長期間にわたって摂取すると体内に蓄積し、重篤な健康被害を引き起こす危険な毒物です。症状が現れる頃には、すでに長い間中毒状態にあることが多く、早期発見が難しいのが特徴です。地球上の岩石に広く含まれるヒ素は、地下水や表流水に溶け出すため、飲料水の汚染が問題となります。
ヒ素とは
地下水は、岩石中のヒ素を含む鉱物が雨水や表流水に浸透することで汚染されます。また、工業排水や防腐処理された木材からの流出、化石燃料の燃焼によって大気中に放出されたヒ素が降雨で地表に沈着し、再び水系に流れ込むこともあります。長期的なヒ素中毒は、肺・皮膚・腎臓・膀胱のがんをはじめ、皮膚の色素沈着や肥厚といった症状が最初に現れ、約10年後にがんが発症することが多いです。症状は個人差が大きく、診断が困難なケースもあります。
安全基準
世界保健機関(WHO)と米国環境保護庁(EPA)は、飲料水中のヒ素濃度の安全基準を0.01ppm(10µg/L)と定めています。WHOはさらに低い基準を望んでいますが、測定が実務的に困難なため現行基準が採用されています。ヒ素は皮膚からは吸収されないため、入浴や洗濯には問題ありませんが、飲用・調理用の水としては絶対に使用すべきではありません。
除去方法
従来の活性炭フィルターや軟化装置はヒ素除去に効果がありませんが、ヒ素除去に特化したシステムと併用することで補助的に利用できます。最も有効とされる除去法は「蒸留」と「逆浸透(RO)」です。どちらも重金属や有機汚染物質の除去に実績があり、少量の清浄水を安定して供給できますが、家庭全体の水量をまかなうには向きません。調理や飲用に必要な分だけを確保する用途に適しています。
蒸留
蒸留は水を加熱して蒸気に変え、冷却装置で再び液体に戻すことで純水を得る方法です。残留したタンク底部には不純物や沈殿物が残ります。クロム、鉛、銅、水銀、カドミウムなどの重金属はもちろん、バリウム、ヒ素、ナトリウム、セレン、フッ素といったミネラルも除去されます。重金属はがんや子どもの発達障害など深刻な健康リスクを伴うため、蒸留は非常に効果的ですが、一度に処理できる水量が限られる点がデメリットです。
逆浸透(RO)
逆浸透は極細孔の膜を通して水を濾過する技術で、細菌・ウイルス・寄生虫はもちろん、ミネラルや重金属までほぼすべて除去します。膜が目詰まりしやすいため、先に活性炭フィルターで大きな粒子や有機物を除去し、最後に紫外線殺菌を加えることで完全な純水が得られます。逆浸透は除去率が高い反面、処理に時間がかかり、使用した水の多くが排水として捨てられるという欠点があります。
