初めて報告されたエイズ症例

1981年、米国で初めてエイズとみられる症例が報告された。当時は「エイズ」という名称はなく、ニューヨークからカリフォルニアまでのゲイ男性が、免疫不全に伴う難治性の感染症や癌で入院していた。3年後、パリのパスツール研究所のルック・モンタニエ博士とワシントンD.C.の国立がん研究所のアンソニー・ガロ博士が、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が原因であることを特定した。

レントウイルスとしてのHIV

HIVは「レントウイルス(遅効性ウイルス)」ファミリーに属し、免疫系を攻撃することが判明した。これにより、ウエスタン・センタラル・アフリカに生息するチンパンジーのシミアン免疫不全ウイルス(SIV)との系統的関係が明らかになり、HIVはSIVから進化したと広く受け入れられている。

ウイルス間の「交配」

1999年、アラバマ大学バーミンガム校のベアトリス・ハーン博士とノッティンガム大学のポール・シャープ博士らは、野生チンパンジーが2系統のSIVに感染していたことを発見した。これらのウイルスが「ウイルス性の交配」を起こし、ヒトに感染可能な新たなウイルス、すなわちHIVが誕生したと結論付けた。ヒトは霊長類の一種であり、チンパンジーと遺伝的に近いため、ウイルスの種間転移が起こり得る。

「患者ゼロ」仮説

研究者は、1959年にコンゴでヒトがSIVに感染した可能性があると考えている。保存された血液サンプルが後に検査され、HIV感染が確認された。「患者ゼロ」はチンパンジーの咬傷やSIV感染肉(狩猟説)によって感染し、ウイルスがヒトに適応したとされる。

ポリオワクチン説

1950年代後半、コンゴ、ルワンダ、ウルンディの村々で口腔投与型ポリオワクチン(チャット)が配布された。ジャーナリストのエドワード・フーパーは、チンパンジー腎細胞で培養されたこのワクチンがSIVに汚染され、人への感染を通じてHIVへと変異したと主張した。ただし、口腔投与では血流に直接入らないため、感染経路としては疑問が残る。

陰謀論的見解

一部の陰謀論者は、HIVが生物兵器として意図的に作られ、黒人や同性愛者コミュニティを根絶する目的で放出されたと主張する。彼らは1972〜1974年にニューヨーク市のゲイ男性や中央アフリカの村で行われたB型肝炎ワクチンの試験が感染源であると指摘するが、根拠は憶測に過ぎない。チンパンジーが最初の実験動物として使用されたことは事実だが、SIVが混入したという証拠はない。