フェニルエチルアミンの発見

構造が非常に単純であることから、トレースアミンの中でも最も研究が進んでいるフェニルエチルアミン(PEA)。最初に言及されたのは1876年、ルイ・パスツールと同時代の生理化学者M.ネンツキ教授の講演である。ネンツキは腐敗と発酵の過程を研究する中で、分解したゼラチンからPEAを単離した。翌年、彼の弟子ジュール・ジャネレが腐敗した卵白中にもPEAが存在することを確認した。

その後の研究

1879年にはシュルツとバルビエリがフェニルアラニンからPEAを合成する方法を確立。1882~1883年にはゴーティエとエタールが腐敗したサバからPEAを検出した。1906年、ウィンターシュタインとビゼッガーは熟成エメンタールチーズに高濃度のPEAが含まれることを報告した。さらに、1988年のダ・プラダらや2000年のスカリットらの研究により、ワイン、ビール、チーズにもPEAが存在することが確認された。

PEAの生理学的特性

1906年、アブロウスらは腐敗した馬肉の有機抽出物が動脈血圧を上昇させることを観察。1909年、バージャーとウォルポールがPEAを単離し、静脈注射により同様の血圧上昇効果を再現した。

異端の研究者:アレクサンダー・シュルギン

後年、アレクサンダー・シュルギンは230種以上のフェニルエチルアミン誘導体を合成し、自身で試験した。その成果は『Journal of Medicinal Chemistry』や『Nature』に掲載され、著書『Phenylethylamines I Have Known and Loved』でも紹介されている。

PEAの潜在的な医療応用

1999年、ベルギー・ベールスのヤンセン研究財団分子設計センターで行われた研究(Janssen, Leysen, Megens, Awouters)は、PEAが精神疾患治療に有望であることを示唆した。うつ病や注意欠陥障害の患者ではPEA濃度が低下し、統合失調症(偏執型)患者では逆に高いことが報告されている。適切に調整した投与量の合成PEAは、将来的に精神疾患の新たな治療法となり得る。