サイコパス(反社会性人格障害)に関する実験研究

米国国立精神衛生研究所(NIMH)の統計によると、2007年時点で米国成人の約9%が反社会的人格障害(通称サイコパス)と診断されています。この障害の身体的・心理的メカニズムを明らかにするべく、複数の実験が行われています。

診断と特徴

診断・統計マニュアル(DSM‑IV)では、反社会的人格障害は「反社会性パーソナリティ障害」として分類されています。サイコパスは他者への共感が欠如し、残酷で無感覚、行為に対する罪悪感がほとんどありません。1990年代初頭、ブリティッシュコロンビア大学のロバート・ヘア博士は、22項目からなる「ヘアチェックリスト」を開発し、臨床現場で反社会性パーソナリティの診断に広く利用されています。

ケーススタディ:アルの実験

ヘア博士は、46件の前科を持つ男性アルを対象にケーススタディを行い、2007年にPBSドキュメンタリーとして放映しました。実験では聴覚装置を用いた言語テストを実施し、反社会性パーソナリティ障害患者の脳処理の異常を検証しました。結果、アルは言語情報が左右両半球で同時に処理されていることが明らかになり、通常は左半球で優位に処理されることと対照的でした。第二の実験では、感情語と中立語を提示した際の情動反応を測定しましたが、アルは両者に対して反応の変化が見られませんでした。ヘア博士は、恐怖感覚の欠如が感情の鈍感さや経験から学習できないことにつながると指摘しています。

受刑者を対象とした実験

1995年9月に『Harvard Mental Health Letter』が掲載した記事「Psychopaths: New Trends in Research」によれば、米国の受刑者の15〜25%がサイコパス的特徴を示すと報告されています。そのため受刑者は実験対象として頻繁に利用されます。クリストファー・J・パトリック氏の論文『Emotion and Psychopathy: Startling New Insights』では、犯罪者集団に対し、暴力的・快適的な映像スライドを提示し、同時に予期せぬ大音量を鳴らす実験が行われました。暴力スライドを見る際、受刑者は驚きや恐怖の表情を示さず、平静を保ちました。一方、非犯罪者は同様の刺激で驚きの反応を示しました。この情動反応の欠如がサイコパスの特徴と考えられ、1994年の『Psychophysiology』第31巻に掲載されています。

ゲームを用いた実験(1970年)

1970年に実施された実験では、マキャヴェリ的知性(Machiavellian Intelligence)に基づくゲームが使用されました。目的は、狡猾さ・操作性・計算高い行動がゲーム内でどの程度の競争力を持つかを検証することでした。2名の社会学者が、マキャヴェリ傾向が高い群と低い群に対し、他者の回答を予測する質問票を配布しました。結果、マキャヴェリ傾向が高い被験者は他者の得点を過小評価し、全体を平均的と見なす傾向が強いことが分かりました。研究者は、これらの判断ミスは他者の社会的・感情的手がかりに注意を払わないことが原因と結論付けました。

前頭葉損傷とサイコパスの実験

神経学者アントニオ・ダマシオは、前頭葉損傷患者を対象に実験を行い、Somatic Marker仮説を提唱しました。ダマシオが開発した『Iowa Gambling Task』は、感情に基づく学習能力を測定するツールで、脳損傷患者とサイコパスの意思決定を比較しました。実験結果は、感情的な体性感覚(somatic markers)が意思決定時の学習に重要であり、恐怖や認知を制御する脳領域が機能不全になると不適切な選択を繰り返すことを示しました。ダマシオは、生理的差異が反社会的行動の根本的原因であると主張しています。

以上の実験は、サイコパスの脳機能や情動処理の異常が行動特性に直結していることを示唆しています。

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