トラウマが引き起こす記憶喪失とは
トラウマ体験は脳内でどのように記憶されるか
トラウマは通常の記憶とは異なる方法で処理されます。危険を感じたとき、脳は「闘う・逃げる・凍りつく」の反応を引き起こすシグナルを大量に放出し、化学物質が過剰に分泌されます。その結果、出来事を一貫した言語的な物語として整理できず、記憶が断片的になることがあります。トラウマ記憶は侵入的に思い出されることもあれば、一定期間全く思い出せなくなることもあります。
忘れた方が安全とされる理由
オレゴン大学の心理学者ジェニファー・フレイド博士は、トラウマを忘れることが生存戦略になると指摘しています。特に、依存関係にある加害者からの虐待は、子どもにとって逃げ道が限られているため、記憶を抑圧することで心理的な安全を保つとされています。フレイドは「裏切りトラウマ理論」に基づき、加害者が保護者である場合、無意識のままでいることに社会的な有用性があると述べています。
事例:性的暴行
幼少期に受けた性的暴行は、記憶が抑圧されやすい典型例です。Recovered Memory Project のケーススタディでは、医学的証拠や他者の証言、加害者の自白があるにも関わらず、被害者が一定期間詳細を思い出せなかったケースが多数報告されています。特に被害が極めて暴力的であったり、年齢が低いほど記憶の抑圧が起こりやすくなります。
事例:ホロコースト生存者
『International Journal of Psychoanalysis』第49号によれば、ナチス強制収容所の初期に囚われた多くの受刑者は、現実感覚が崩壊したため最初の数日間の記憶を全く持たなかったとされています。子どもの頃に収容所で過ごした生存者は、解放後何十年たっても幼少期の数年間を思い出せないことが報告されています。
トラウマによる記憶喪失への支援
交通事故、戦闘体験、都市部での暴力目撃など、さまざまなトラウマ体験でも記憶喪失が起こります。精神科医や臨床心理士などの専門家は、対話療法、催眠療法、薬物療法などを組み合わせて、記憶の再体験と統合を支援します。適切な支援を受けることで、記憶の断片を安全に取り戻し、心の回復へと導くことが可能です。
