Bt遺伝子とは何か?
バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis、略称Bt)は土壌に自然に存在する細菌です。Btは昆虫の幼虫に対して有毒なタンパク質結晶(クリスタルタンパク質)を産生します。この結晶は蛾類、甲虫類、蚊、黒ハエ、線虫、扁形動物などに毒性を示します。
Bt遺伝子とは、Bt染色体上に位置するDNAの一部で、これらの結晶タンパク質をコードする遺伝情報です。米国・カナダ・アルゼンチン・南アフリカ・欧州の一部で、Bt細菌やBt遺伝子産物は殺虫剤として利用されています。
歴史
Btは1901年に日本で初めて発見され、1958年に米国へ導入され農業用途に利用されました。当初は細菌培養物を作物の散布剤や粉剤として使用していました。遺伝子工学の進展によりBt遺伝子が単離・同定され、作物のゲノムに組み込むことで、植物自体が結晶タンパク質を産生し、散布不要で害虫に耐性を示す遺伝子組換え作物(Bt作物)が誕生しました。
利用例
現在、Bt遺伝子はトウモロコシ、ジャガイモ、ブロッコリー、カリフラワー、綿、タバコなど多数の主要作物に導入されています。米国の森林ではスプルース・バドワームやギャラパウガの防除にBt細菌が散布され、家庭用の園芸用殺虫スプレーにもBtが配合されています。
利点
Btは水や雨で植物から洗い流され、日光により分解されるため環境負荷が低いとされています。一方、効果は害虫がBtを摂取したときに発現するため、接触殺虫剤に比べて即効性は低いです。遺伝子組換え作物がBt遺伝子を常に発現させることで、天候に左右されずに害虫耐性を維持でき、作物内部に侵入した害虫でも死滅させることが可能です(アイオワ州立大学の報告)。
安全性
米国環境保護庁(EPA)はBt作物と市販のBt殺虫剤を「一般に安全とみなされる」(GRAS)と分類しています。人間は結晶タンパク質を毒性形態に変換する酵素を持たないため、食品として安全です(Davidson College)。ただし、動物実験の結果は一貫せず、モナーク蝶に対しては致死性が確認されています。
考慮すべき点
Bt作物の使用に伴う課題として、害虫の抵抗性進化があります。Btは多くの個体を殺すものの、全てを駆除できないため、生き残った個体の中に抵抗性遺伝子が蓄積し、次世代へと受け継がれます。また、遺伝子流出(gene flow)という問題も指摘されており、Bt作物が近隣の非Bt作物と交配することで、意図せずBt遺伝子が他の植物に移行する可能性があります。
