なぜ物事をスライドさせるべきか
働く母親と専業主婦、どちらが幸せかは一概には言えませんが、ワシントン大学の社会学博士課程学生カトリナ・レップが行った最新の研究が、働く母親が直面する課題に光を当てました。調査によると、仕事と家庭を簡単に両立できると信じる母親は、懐疑的な母親に比べてうつ症状のリスクが高いことが分かりました。
レップは、全米長期青年調査(1979年開始)から抽出された1,600人の女性(専業主婦と働く母親)を分析しました。調査開始時の年齢は14〜24歳で、レップが分析を行った時点では全員が40歳以上でした。
参加者は、女性の社会的役割や既婚女性の就業に関するステートメントにどの程度同意するかを尋ねられました。例として「男性が外で活躍し、女性が家庭を守る方が全員にとって良い」や「女性は自宅で子どもを育てる方が幸せである」といった主張があります。
結果、40歳時点で就業している女性は、悲しみや睡眠障害、朝起きられない、集中力低下といったうつ症状が有意に少ないことが分かりました。また、仕事と家庭の両立を楽観的に捉える女性ほど、懐疑的な女性よりも症状が少ない傾向がありました。
レップは「多くの研究が就業が女性のメンタルヘルスを向上させると示しています。今回は、就業に対する姿勢がうつにどのように影響するかを検証したかった」と語ります。
レップはプレスリリースで次のようにまとめました。「少しずつでも『スライドさせる』ことを受け入れれば、子育てとキャリアを両立させることは可能です」。
感情的な煙探知器
臨床心理士で『Love Again: Creating Relationships Without Blame』の著者であるジャン・ハレルは、うつ症状を「感情的な煙探知器」と例えました。「煙探知器の警報を無視すると、やがて火事になって大きな警報が鳴ります。うつも同様に、放置すれば症状は悪化し続けます」。
たまに感じる疲労感や悲しみ、物忘れは普通ですが、頻繁に現れる場合は早めに対処すべきです。
ハレルは「‘スーパーママ’という理想は、無力感や喪失感を回避しようとする試みです。しかし、完璧を求めすぎると自分を追い込んでしまい、うつは『何かがうまくいっていない』ことを知らせる警報になります」 と指摘します。
個人の『警報』を無視すると、感情面だけでなく子どもとの結びつきにも悪影響が出ます。2006年の研究(101人の乳児の母親)では、産後うつ症状が母子関係の質低下と関連していることが報告されています。
うつは配偶者や友人との関係、身体的健康、仕事のパフォーマンスにも支障をきたす可能性があります。
完璧主義を克服する
自分や自分の仕事に対して前向きな姿勢を持つことは、子どもが大人になったときに同じようなプレッシャーに悩まされないモデルとなります。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究によれば、完璧主義は「達成不可能な幻想」であると認識することが第一歩です。
次に、自己破壊的な行動や思考を変える具体的な方法を実践します。
- 自分のニーズ・欲求・過去の実績に基づいた現実的な目標を設定し、自己肯定感を高める。
- 普段全力を注ぐ活動に対し、60〜90%の努力に留めることで、完璧でなくても生活は続くことを実感する。
- 結果よりもプロセスに焦点を当て、楽しさを優先し不安やストレスを軽減する。
- 「最悪のシナリオは何か?」と自問し、恐れの正体を明らかにする。
- 失敗は学びのチャンスと捉え、何を学べるかを自問する。
- 必要なら助けを求めることを躊躇しない。
トレードオフの交渉
ハレルは「母親としての役割、自己実現への欲求、家族の生活を支える必要性は、すべてフルタイムの仕事に匹敵する重みがあります。すべてを同時にこなすのは不可能なので、妥協が必要です」 と語ります。
米国の労働市場では女性が全労働力の46%を占め、9百万社以上が女性経営です。さらに、女性労働者の71%が子どもを抱えています。
“スーパーママ”が抱える罪悪感は、助けを求めることの重要性を示すサインです。レップは「助けを求めても構わない、と自分に許可を与えることが大切です」 と述べました。
働く母親が専業主婦よりもメンタルヘルスが良好な理由の一つは、家庭からの「休憩時間」が確保できる点です。仕事の充実感や趣味の時間が、家庭と仕事のストレスをスライドさせる助けになります。
元専業主婦で5人の子どもを育てながら地域教育クラスを担当したキャロライン・ジョンソンは「収入は副次的なもの。大人と交流したいのが主な動機でした」と語ります。
自分の時間が取りにくい場合でも、子どもの昼寝や会議の合間など、短い時間を有効活用しましょう。
姿勢の変化
完璧主義やうつ、ストレス対策の本やウェブ記事は数多くありますが、根底にある思い込みを見直すことが最も重要です。
ハレルは「呼吸ごとに自分の前提を観察し、吸うときは『今の自分でできることをやるだけで十分』と自覚し、吐くときは判断や不安、期待を手放す」と提案します。
社会的には女性の就業が受容されつつありますが、家事は依然として女性が多く担っています。これはうつリスクを高める要因です。配偶者や家族と協力体制を築き、チームワークを受け入れる姿勢が求められます。
仕事のストレスを別の視点で捉えることも“スーパーママ”症候群の緩和につながります。
レップは「米国は子育て世代に優しい制度が十分ではありません。女性が自分の限界を認め、無理をしない選択をすることが重要です」 と結びました。
