うつ病のモノアミン仮説
モノアミン理論は、うつ病が脳内のセロトニンやノルエピネフリンといったモノアミンの濃度低下によって引き起こされるとする仮説です。モノアミンのレベルを上げることで、症状が軽減したり、完全に逆転したりすると考えられています。
歴史
1950年代後半に、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)と三環系抗うつ薬がうつ病治療に有効であることが発見されました。1960年代後半までに、これらの薬が脳内のノルエピネフリンとセロトニンの濃度を上昇させることが判明しました。同時に、神経伝達物質を枯渇させるレセルピンが約15%の被験者でうつ症状を引き起こすことも分かり、うつ病はモノアミン欠乏が原因であるという「モノアミン仮説」が提唱されました。
セロトニンとノルエピネフリン
セロトニンは脳内で様々な機能を担います。高濃度では痛み耐性が上がり、食欲が抑制され、気分が改善し、睡眠が促進されます。一方、低濃度では痛覚過敏、食欲増進、抑うつ、不眠、攻撃的行動、体温調節不全などが現れます。セロトニンは必須アミノ酸トリプトファンと葉酸、ビタミンB6、B12から合成されます。
ノルエピネフリンはアミノ酸チロシン、葉酸、マグネシウム、ビタミンB12から合成されます。ノルエピネフリンが減少すると抑うつ感やイライラが増します。チロシン摂取を増やすとノルエピネフリンが上昇し、気分改善、覚醒、ストレス緩和、認知機能向上が期待できます。
研究結果
うつ病患者のモノアミン濃度を測定した初期研究は一貫しませんでした。ある研究はうつ患者の脳脊髄液中のモノアミン代謝産物が低下していると示しましたが、別の研究は差がない、あるいは増加していると報告しています。また、神経伝達物質枯渇薬を投与されても多くの被験者はうつ状態になりません。さらに、抗うつ薬は全患者のモノアミンレベルを上げますが、臨床的改善は約60%にとどまります。抗うつ薬投与直後にシナプス内モノアミンは急速に増加しますが、症状改善は数週間後に現れます。これらは、抗うつ薬の効果が単なるモノアミン増加ではなく、モノアミン変化に対する後続の適応変化に起因すると示唆しています。
細胞レベルの機能不全
モノアミン仮説は、シナプスレベルでいくつかの細胞異常が起こり得るとします。
- 過剰な再取り込みにより、放出された神経伝達物質が大量に再吸収される。
- シナプスへの神経伝達物質放出が減少する。
- モノアミン酸化酵素が過剰に活性化し、神経伝達物質が過剰に分解される。
- 神経保護タンパク質の合成が阻害される。
- 受容体機能の異常が生じる。
考察
モノアミン仮説は過度に単純化された概念ですが、モノアミン系に注目させた点で大きな価値があります。これにより、神経伝達物質の生理学的役割や、既知の全抗うつ薬が神経伝達を増強するメカニズムの理解が飛躍的に進みました。
